ゼロの焦点

結婚式から7日後、仕事の引き継ぎのため金沢に向かった鵜原憲一は帰ってこなかった。夫の消息を追い金沢へと旅立った妻の禎子は、憲一のかつての得意先で、社長夫人の室田佐知子と受付嬢の田沼久子に出会う。一方、憲一の失踪と時を同じくして連続殺人事件が起きるが、事件の被害者はすべて憲一にかかわりのある人物だった…。


舞台は昭和32年。戦争や見合い結婚など、現代人からしてみればなじみのないものが話の軸になっているので、あまり共感はできなかった。とはいえ、自分は家族や友人のことをどれだけ知っているんだろう? という疑問はいつの時代にも共通するだろう。そして考えてみると、案外知らない部分のほうが多かったりする。
その事実を突きつけられ、不安に駆られて夫の行方を捜索する禎子の心情を丁寧に描いていたのはよかったんだけど、そのせいか前半は展開が遅く、後半は駆け足気味だった。ミステリの肝である犯人探しの部分を禎子の語りと回想(ともすればただの想像)だけで済ませてしまうのはどうなんだろう。佐知子が社長夫人になった経緯とか、室田との夫婦仲とか、憲一の禎子や久子に対する想いとか、もっと詳しく知りたい部分が多かった。
まあでもたぶんこの映画のメインはそこじゃなく、この時代を生き抜くために女たちは何をしたのか、というところなんだろうな。
その女たち――中谷美紀は鬼気迫る演技と表情がすさまじかったし、木村多江はあいかわらず幸薄い役どころがうまい。このふたりの対決シーンは一番の見どころ。でも広末は正直ミスキャストだったと思う。あの甘ったるい声での舌足らずなしゃべりかたは、重厚な物語の中では完全に浮いている。残念。


過去にとらわれ、新しい時代を生きることができなかった男女の哀しい物語。
…なんだけど、基本的に火サス展開で(これが火サスの元ネタらしいから当たり前なんだけど)、これが松本清張生誕100周年記念の作品なのかと思うとなんだかなあ。『オンリーユー』も中島みゆきの主題歌も単体ではいい曲なんだけど、演出としては失敗だった気がする。歌詞の字幕も。
そんな感じで、キャスティングも演出も平成という時代からも、ところどころずれた部分があった作品だった。つまらなくはなかったんだけど、もうちょっとどうにかできたんじゃないかと思う。
★★