カールじいさんの空飛ぶ家

最愛の妻を亡くし、孤独な一人暮らしをしていたカールじいさん。ある日、彼はずっと叶えられずにいた妻との約束の地、伝説の滝“パラダイス・フォール”を目指して旅立つことを決意する。思い出の詰まった家に二万個の風船を結んで空を飛んでいく、という奇想天外な方法で。
自称スーパーレンジャー・ラッセル少年、幻の巨鳥・ケヴィン、言葉をしゃべる犬・ダグを従えたカールじいさんの冒険やいかに?


ずっと楽しみにしてた作品がやっと観れたー!! ちなみに観たのは吹替版2D。
まずキャラクターの造詣や質感がなめらかで温かみがあって、しぐさも自然で素晴らしい。家が風船で空飛んじゃうっていう荒唐無稽なことが、ほどよくリアルにファンタジックに描かれていた。パキッとした色合いで、空の青とジャングルの緑が印象的。
で、開始10分、冒頭のダイジェストで早くも泣いてしまった藍川…。
カールじいさんと妻・エリーの夫婦生活が、台詞ひとつもないままBGMに乗せて流れるんだけど、その幸せで満ち足りていること、エリー亡きあとの喪失感といったら…。むしろここが一番泣けたかもしれない。
しかも「大人の事情」をはっきり説明しないところがうまいというかなんというか。エリーの妊娠のこともそうだし、裁判もそうだし、ラッセルの家庭事情もそうだし…。たぶん子供にはわからないんだろけど、わからないところで支障はないから、このへんが大人の鑑賞にも堪えうるポイントのひとつなんだろうなあ。


でも空飛ぶ家が南米に着いてからは、冒険活劇の始まり。冒頭での老夫婦のしんみりした思い出話はなりをひそめてしまうため、ちょっと印象が変わってしまうかも。予告だと夫婦の思い出に焦点が当てられていたから、そういうしんみりほのぼの感を期待していた人には肩透かし…かなあ。
私もあれなんか違う、と思ったクチでしたが、これはこれで楽しめました。
犬・鳥・少年、とさながら鬼退治のようで、テニスボールの付いた杖を片手に奮闘するカールじいさんは、かっこよくて応援せずにはいられません。…なんかね、藍川はずっと胸がきゅーっとなってて、よくわからないけどほんとずーっと泣きそうで仕方ありませんでしたよ。じいちゃんの頑張っている姿には胸を打たれるのです。
「老夫婦の思い出話はなりをひそめる」とは書いたものの、それでも全編通して根底にあるのはそれですよ。
カールじいさんを突き動かすのはいつだってエリーの言葉。そしてその言葉で、エリーを亡くして以来ずっと留まっていた思い出の中から旅立つことができた。
なにも風船で家ごと空を飛ぶようなことばかりが冒険ってわけじゃなくて、新しい人生に生きることを「冒険」って言うんだろうな。次の場所に旅立ったって、思い出の家が約束の場所にあるように、大切な思い出はいつも心の中にあるんだろうな、と私はそう感じました。


そんなわけで、じんとしたあと温かい気持ちになれるいいお話でした。キャラ同士の掛け合いも楽しくて、何度もくすりとしてしまったり。小物の使い方もうまいんだー。そして吹替キャストに変な芸能人を起用していないところがいい。とてもいい。
本編の前には短編『晴れときどきくもり』付き。雲とコウノトリの台詞のないやりとりで、こっちもほっこりできるお話でした。
★★★★★