昨日買った漫画

4063106179虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)
市川春子
講談社 2009-11-20

すごくいい本を買った…。昨日買ったばかりなのに、もう何度も読み返している。
アフタの四季大賞を取ったかたということで。
ヒトとそうでないもの――虫や植物や星との交流を描いた作品が四編。SFというよりももっと日常的でほんの少しファンタジーで…なんだろう、バイオ系?
“ヒトでないもの”たちはこの漫画の中では当たり前に生命を持って存在していて、しかもヒトよりもよほど純粋できれいで儚い存在だ。それと対比されてヒトのエゴや醜さを突きつけられた気がする。『星の恋人』だったり、『虫と歌』だったり。
シンプルな線が、そんな内容とすごく合っていてまたいい。


『星の恋人』は、前述のヒトのエゴやらが特に顕著で気持ち悪い。気持ち悪いんだけどすごく透明感があってほんのりと切ない。「つつじ」のかわいらしさが逆に残酷な気もする。
ヴァイオライト』は一番抽象的で、読み終わったあと表紙を見返してなるほどと納得する。ほんの一瞬の交流と、永遠に続く友情の話。だと思った。
『日下兄妹』は、「ヒナ」がとにかくかわいらしかった。図書館で本を読むたび(読んでいる本のジャンルがまた…)成長していく姿がひどくいとおしい。ラストは切ないけれど温かいものだった。野球部員たちのやりとりは、この作品集の中でも唯一の日常風景。楽しげなんだけど、逆にこっちのほうが遠い世界の出来事のように見えてしまうから不思議だ。
『虫と歌』、やっぱりこの話が一番好きかも。眼鏡をかけて笑った「シロウ」が、もう…。なんでもないシーンのようにひとコマでさらりと流されてしまうんだけど、このシーンが一番印象的だった。そして唯一のヒト代表というべき存在であろう「友」の気持ちの悪いこと。けれど私(読者)も、友と同じ世界に属する存在で、それがこの話で涙するのはお門違いな気がして罪悪感を覚える。


どの話も読み終わったあと胸がざわざわして、でもその余韻にひたっていたくなる。波が去るとなんだかもう一回読み直したくなって、そのたび印象が変わって、とそんなことを繰り返しています。
描き下ろしの『ひみつ』も、たった二ページだけどはっとさせられ、ふふふと笑ってしまう素敵なお話。
アフタヌーン一月号に新作読みきりが載っているということで、これはもう買うしかありませんな。今後も追い続けたい作家さんがひとり増えました。